福岡高等裁判所宮崎支部 昭和34年(ネ)144号 判決 1960年2月18日
控訴人 被告 岡部頼征 外一名
訴訟代理人 山本真平
被控訴人 原告 岡部与三郎
訴訟代理人 木村一八郎
主文
原判決を取り消す。
本件を大分地方裁判所佐伯支部に差し戻す。
事実
控訴人等代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一・二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件各控訴を却下する。控訴費用は控訴人等の負担とする。」との判決を求め、本案について、「本件各控訴を棄却する。控訴費用は控訴人等の負担とする。」との判決を求めた。
事実及び証拠の関係は、
事実関係につき、被控訴代理人において、本案前の抗弁として、「控訴人等の本件控訴はいずれもつぎの理由により不適法である。すなわち、かりに、当審において控訴人等の主張するように原判決の送達手続にかしがあつたとしても、控訴人等は同人等に宛てた原判決正本を昭和三四年六・七月頃被控訴人方から盗み出し、同年七月二五日山本真平弁護士を代理人として大分地方裁判所佐伯支部に原判決について再審の訴を提起し(同裁判所昭和三四年(カ)第一号)、その後これを取り下げていることからして、遅くとも右昭和三四年七月二五日には原判決言渡の事実を知つていたことは明らかである。しかるに控訴人等の本件控訴の提起は同年九月二八日でその間二ケ月の期間を経過している。したがつて、たとい、控訴人等の責に帰すべからざる事由によつて不変期間たる控訴期間を遵守することができなかつたものであるとしても、訴訟行為の追完ができるのは、民事訴訟法第一五九条によりその事由の已んだ後一週間内に限られているから、本件においては、遅くとも右昭和三四年七月二五日から一週間内に限つてのみ控訴を提起することが許されるというべく、この期間をはるかに経過した同年九月二八日になされた本件各控訴は不適法であるから却下すべきである。控訴人等の当審における主張事実中、被控訴人と控訴人等との身分関係が控訴人等主張のとおりであることは認めるが、判決詐取の事実は否認する。控訴人等は判決送達当時被控訴人方より出稼に行つていたにすぎないし、被控訴人が控訴人等に送達すべき訴状・判決正本等を控訴人等の代人として受け取つたわけは、郵便集配人が被控訴人に対し親子でありながら代人として受け取りを拒絶することはできないというので、已むなく代人として受け取つたにすぎない。被控訴代理人は原審口頭弁論終結後本件記録を調査したところ、控訴人等宛の訴状を被控訴人が代人として受け取つている旨送達報告書に記載してあつたので、控訴人等に対する送達手続に疑問を持ち、原審裁判官に対し、弁論再開につき職権発動をうながしたけれども同裁判官はこれに応じなかつたいきさつであり、控訴人等主張のごとき判決詐取の事実のないことは明らかである。」と述べ、控訴人等代理人において、被控訴人の本案前の抗弁に対し、「控訴人等は原判決書記載のごとき判決の言渡のあつたことを昭和三四年七月二五日頃知つたのであるが、つぎのようないきさつによつて、その訴状・口頭弁論期日呼出状は勿論、判決の送達はいまだに受けていない。すなわち、控訴人悦子は被控訴人の娘、控訴人頼征は悦子の夫で被控訴人の養子であつて、ともに大分県南海部郡直川村大字下直見九〇七番地に同居していたのであるが、家庭内の紛議を生じ、昭和三四年一月二日被控訴人等夫婦は右被控訴人方から宮崎県東臼杵郡諸塚村四、一六三番地に転居し現在にいたつているのである。ところが、被控訴人は裁判所を欺罔して控訴人等の不動産を騙取しようと企て、控訴人等が右のとおり転居しているのにかかわらず、本件訴状に控訴人等の住所を被控訴人の肩書住所と同じ大分県南海部郡直川村大字下直見九〇七番地と表示して、原裁判所に本件訴訟を提起し、控訴人等に対する訴状・口頭弁論期日呼出状は被控訴人が控訴人等の代人として自ら受け取つたため、控訴人等に対する期日の呼出が適法になされていないのに原審は第一回口頭弁論期日を開き控訴人等欠席のまま訴訟手続をなし、同期日に口頭弁論を終結し、原判決書のとおりの判決を言渡し、控訴人等に対する判決正本の送達も被控訴人が代人として受けていたのである。控訴人等は右訴訟および判決の事実を判決言渡後の昭和三四年七月二五日頃になつてはじめて知つたのであつて、控訴人等に対してはいまだに判決の送達がないから、本件各控訴は控訴提起期間を徒過していず、本件各控訴は適法であり、被控訴人の本案前の抗弁は理由がない。」と述べ、本案につき、「被控訴人主張の本件不動産が現在被控訴人の所有であることは否認する。」と述べ、
証拠関係につき、控訴人等代理人において、乙第一号証・第二号証の一・二を提出し、被控訴代理人において、右乙号各証の成立を認めたほか
原判決事実摘示のとおりであるから、原判決のそれを引用する。
理由
まず、本件各控訴の適否について判断する。
職権で調査するに、被控訴人が本件訴状に控訴人等の住所を被控訴人の肩書住所と同じ大分県南海部郡直川村大字下直見九〇七番地と表示して本件訴訟を提起し、控訴人等に宛てた訴状・口頭弁論期日呼出状を被控訴人が控訴人等の代人として自ら受け取り控訴人等に交付しなかつたこと、原審は控訴人等に対し適式に期日の呼出がなされているものとして、控訴人等不出頭のまま、昭和三四年五月一日午前一〇時の第一回口頭弁論期日を開いて審理し、同日口頭弁論を終結し、同月二二日午前一〇時原判決を言渡し、控訴人等に対する判決正本の送達も前記訴状記載の住所に宛ててなし、これまた被控訴人が控訴人等の代人として同年六月七日受け取つたまま控訴人等に交付しなかつたことが本件記録編綴の訴状と控訴人等に宛てた郵便送達報告書(記録三七丁、三八丁、四六丁、四七丁)、被控訴人の答弁書によつて明らかである。ところが、成立に争いのない乙第一号証(住民票)によると、右訴訟提起にさきだつ八〇日前の同年一月二日控訴人等は右訴状表示の住所地より現住所の宮崎県東臼杵郡諸塚村四、一六三番地に転居していることが認められる。そうすると控訴人等に対する右送達はもともと送達場所を誤つているのみならず、被控訴人は控訴人等の同居者でもなく、また控訴人等の事務員・雇人であることも認められないので、右訴状・口頭弁論期日呼出状・判決の各代人送達は補充送達としても不適法であつて、控訴人等に対してはいまだ判決の送達はなされていないといわざるを得ない。もつとも、かしある送達でも追認なしい責問権の放棄によつて治癒される場合もあるけれども、本件においてこれらの事実を認めるべき形跡は全くない(被控訴人主張のごとき控訴人等の送達場所でないところに宛てた判決正本盗み出しの事実があつたとしても、これをもつて判決の送達ないし受領の追認があつたとは到底解されないし、また被控訴人主張の再審申立の事実があつたとしても、これまた追認ないし責問権の放棄とは解されない)。
しかして、判決送達前といえども控訴の提起を許すことは民事訴訟法第三六六条第一項但書に明示するとおりであるから、本件各控訴は控訴人等主張の判決詐取の内容について判断するまでもなく適法である。
被控訴人は判決送達手続にかしがあり、控訴人等において控訴期間を遵守することができなかつたとしても、控訴人等は遅くとも原裁判所に原判決について再審の訴を提起した昭和三四年七月二五日には原判決を知つていたのであるから、民事訴訟法第一五九条により右の日から一週間内に限つて訴訟行為の追完が許されるにすぎず、これをはるかに経過してなされた本件各控訴は不適法であると主張するので検討する。民事訴訟法第一五九条は不変期間中になすべき訴訟行為を懈怠した場合の追完を許容する要件を定めたものであり、これを控訴期間の関係で考察するに、公示送達の不知による控訴期間の懈怠の場合(大審院昭和一六年七月一八日言渡・民集二〇巻九八八頁の事件参照)、同居の妻に対する離婚の訴状・判決を使用人をして受け取らせ本人に交付させなかつた場合(大審院大正一三年三月七日言渡・民集三巻九九頁の事件参照)のごとく、ともかくも有効な送達があつたのに対し、当事者の責に帰すべからざる事由によつて不変期間を遵守することができなかつた場合における訴訟行為の懈怠についての追完を規定したものであり、本件のごとく全く送達が無効であるときには不変期間の進行が生ぜず、したがつて同条による追完の問題にはならず、何時にても控訴を提起することができると解すべきであるから、被控訴人の主張は採用できない。
右のとおり本件各控訴は適法であるが、前認定のごとく本件においては訴状の送達すらなされてなく、控訴人等に対し期日の呼出もされていないのに第一回の口頭弁論期日を開いて審理した上弁論を終結したことは、判決手続において法律違背をおかしたことになり、しかも、その結果第一審における審理が全然ないに等しいわけであるから、当番においては実体の審理に立ちいらず、原判決を取り消し、本件を原審に差し戻すことにする。
よつて、民事訴訟法第三八七条・第三八九条により主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 桑原国朝 裁判官 渊上寿 裁判官 後藤寛治)